三宮サファリパーク。

先日のイベントで一緒にDJをした三人と三宮駅で待ち合わせして
近くのイベントを見に行くことになった。


中央口でモリサワさん(仮名)とふたりで、マキノさん(仮名)を待っていたら、
目の前に泥酔して吐瀉物にまみれた少女がひとり倒れていた。
見たところ未成年といったところだ。
「倒れているね」
などと話していたらその横にもひとり少女が座り込んでいる。
他は終電に走る人ばかりでつまらないので、
倒れている少女を見るともなしに見ていたら、唐突にむくりと起き上がった。


『見てんじゃねぇ』
と言わんばかりの目つきでこちらに一瞥をくれると、
彼女はそのまま僕を見つめたままデロデロと吐いた。
今世紀最高のフォトジェニック。
すかさず携帯を取り出して写メールを撮った。
撮り終わると彼女は大の字に倒れ、
さっきより少し増えた吐瀉物の中に再び埋もれた。
さてもう一枚と携帯をかまえたとき、横からもう一人別の少女が駆け寄ってきた。


「あのそれ(写メール)はちょっと、勘弁してくれませんか?」
倒れている少女の連れらしい。
あまり怒っている様子はない。
どちらかというと馴れ馴れしい。
どうでもいいことだけど、倒れている少女といい、
この子らはどういう服のセンスをしているのだろう。
今僕に交渉している少女は豹柄のワンピースを着ている。
「なんで?」
「なんでって・・・」
雌豹は酔っているのか、おかしな返答をされて半笑いになってしまった。
「それよりあの子、あのまんまだと死んじゃうよ」
実際仰向けに倒れているためノドにつっかえた吐瀉物で何度も呼吸が止まっている。
詰まるところ、窒息しかけているのだ。
「窒息しかけているよ」
と言うと、ひどく驚きどうすればいいのかと問い掛けてきた。
ああものすごく頭が悪い人たちの集まりなのかと確信できたので、
素直に、
まず横向けに寝かせて、吐瀉物を吐き出させて、ノドに詰まってたら指でかきだして、
可能な限り水分と糖質、簡単に言うと甘いスポーツドリンクを飲ませ続けなさいと説明してあげた。
救急車が一番手っ取り早いのだけれど、恐らく未成年だから呼べないのだろう。


一応「いくつぐらい?」と年齢を聞いてみた。
すると、
「えー、23か4くらいですかぁ?」
馬鹿か。俺の歳は聞いてねぇ。
雌豹は、『友達がつぶれちゃったので介抱してあげる、損な役回りだけど美麗でテキパキとしていてできる女』を演じつつ、
「あの、ここまかせていいですか?あたしスポーツドリンク買ってきます!」と言い放ち、
僕の返事を待たずして北に走っていった。
すぐ東に自販機があるというのに。
酒だけでなく自分にも酔っているのだろう。


一刻も早くこの場を去りたい。
すごく頭の悪い人たちと出会ってしまった。
マキノさん(仮名)はまだ来ない。
仕方がないのでぼーっと見ている。
と、
「あの!」
と語気の荒い口調で後ろから声をかけられた。
さっきまでしゃがみ込んでいた少女だ。
小さい子供が着るようなオーバーオールを着ている。
「彼女どこに行ったんですか!」
雌豹の行方が気になったのだろう。
それにしても何故僕にキレているのだろう。
聞いてみようかと思ったが、
こちらは雌豹とは違い、明らかに火に油なのでやめた。
アルコールの力を借りて正義感を捻出するタイプだ。
絡み酒の兆候もうかがえる。


ことの次第を説明している途中、
「あぁ!」とゲロまみれの連れのほう見て大声をあげた。
そちらに目を向けてみるとモリサワさん(仮名)が
吐瀉物から少女を守るために体を横向けにさせているところだった。
なにかいかがわしい行為をするとでも思ったのだろう。
「なにしてるんですか!」と言葉を続けている。
つかみかからん勢いだ。
ややこしいので、
「大丈夫。彼は看護士です」
と言った。
半分くらい嘘だが、だいたいあってる。
「あ、すみません。助かります」と彼女の怒りは霧消した。
こういう手合いはこれで黙る。


そうこうしているうちにマキノさん(仮名)到着。
「これ、どういうこと?」と至極真っ当な質問を投げられた。
連れではないことと、雌豹が今スポーツドリンクを買いに走っていて、
任された手前、今しばらくここを動けないことを伝えた。
それからモリサワさん(仮名)マキノさん(仮名)オーバーオールと僕の四人で、
雌豹を待つことになった。


それにしても遅い。
雌豹が走ってからもう20分くらい経つ。
なんでスポーツドリンクを買いに行くだけでこんなに時間がかかるんだ。
ふらふらながらもオーバーオールが立ち上がっているので
もう立ち去ろうかと考えていたら、雌豹が帰ってきた。
なぜか泣きべそをかいている。
気が進まないけれど、どうしたのかと聞いてみた。
「途中でからまれたんです」
と言う。


当たり前だ。
この時間の土曜日の三宮をそんな雌豹が通ったら、
何人もハンターが群がるのは目に見えている。
狩ってくださいと言わんばかりだ。
「ああそう」と適当にかわし、
「もう行っていい?」と聞くと、
「ありがとうございました。スポーツドリンクも買ってきたし大丈夫です」
と言うのでお役ご免、ようやく立ち去れることになった。


去る間際、ふと雌豹の手を見ると、
アミノ酸がたくさん入ってるダイエット用のスポーツドリンク、
それも200ml缶を握りしめていた。
足りるわけがない。
2リットルのペットボトルでも足りないだろう。


「救急車呼びなさいね」
と言い残して僕たちはイベントに行った。
できることなら彼女たち全員の頭のMRI画像を見たいところだ。


初っぱなに撮った写メールは、
三宮を駆けた雌豹に免じてアップしないでおきます。