飛翔(仮題) ※そこそこ未完。

女のことを書くのは好きじゃないのだけれど、
今日は少し特別な日なので書く。




AM6:00のアラームで目が覚めた。
トランペット吹きの休日っていう、
あの運動会の曲だ。

━タッタカラーラッ、タッタカラーラッ、タッタカラーラッ。*1


このアラームを聴くたびに運動会が大嫌いだった小学校の頃を思い出すし、
『トランペット吹きの休日』という曲名なのに妙にせわしない、
曲名と曲とのギャップというか矛盾というか、
ああトランペット吹きという職業に休日は存在しないのかなというお門違いの憐れみと、
何か自分が揶揄されているような錯覚、世知辛さと浅い絶望感と、
運動会に怯える小学生の自分がオーバーラップして、
不快極まりない目覚めになる。


アラームは不快なほうがいいとは思う。
僕は携帯電話をアラームにしているのだけれど、
アラーム音は自分が最も不快だと感じる電子音にしている。
テストトーンのような単音で、
携帯電話にデフォルトで入っている優しいトーン音では起きられる気がしなかったので、
わざわざ自分で一番耳障りな着メロをつくった。
トーンの間隔も長くもなく短くもない中途半端な間隔にして。
この携帯電話のアラーム音に見るサディズムマゾヒズムの相関関係にも触れたいが、
それはまた後日。


話は戻る。
僕のアラーム音がテストトーンということは、
トランペット吹きの休日は誰のアラーム音か。
僕はここ数年間、いろんな場所でそれを聴いてきた。
大阪の場末のラブホでだったり、
僕の家でだったり、
彼女の家でだったり。


このトランペット吹きの休日の音が本当に嫌で、
何度かやめてくれないかと抗議したのだけれど、
結局最後の最後までやめなかったのが、
この携帯電話の持ち主で今日の主人公の『彼女』だ。


トランペット吹きの休日を聴いて、
二人して素っ裸で飛び起きる。
ひどい頭痛がするので頭痛薬を飲み、
コーヒーを淹れてなぜか冷蔵庫に入っていたおにぎりをキッチンで座り込んで食べた。
昨日のこと、今日すべきことをぼんやりと思い出していく。
尋常じゃない量の飲酒によって濁った頭ではそれは大変難しく、
思い出すのに30分はかかった。
昨夜はセックスをしていない。
最後のセックスを、とラストひとかじりのおにぎりをほお張った刹那、
妙な違和感が頭をかすめた。
自分で思ったことなのに。
最後?
最後って?━




彼女との出会いは4年前にさかのぼる。
とある場所で知りあい、
僕が手伝うバーにちょくちょく彼女が飲みに来るようになってから付きあうようになった。
互いに激昂したり消沈したり、くっついたり離れたりを繰り返して、
もう4年だ。
お互いに罵り合いながらも、
なぜかまだ一緒にいられるのは馬が合うからとかそういう次元じゃないからだろう。


躁状態の僕は言語野の働きが著しく低下する。
イメージしているものを言葉でアウトプットしきれず
それは日常の生活に置いては支障をきたす。*2
会話のキャッチボールがまったくできなくなるのだ。
言葉にしたくても出てくるのは、離散された単語の羅列。
それをきれいにすくい上げて、
「あなたはこう言いたいんでしょう」と
受け止めるでもなく、きれいな形に形成できる人、
フィルターを通すことなく、普通の会話としてアウトプットせずとも、
理解できる人だから、一緒にいるんだろう。
右脳しか使ってこなかった僕と、
大学院で外国語を習得してきた言わば言語野のスペシャリスト、左脳派の彼女。


そんな彼女と過ごす日々も今日で最後だ。
最後といっても、空白であって、永遠に最後ではないのだけれど。


ビルマに行くよ」
と彼女が言い始めたのはもう2年も前からだ。
彼女が大学院にまで通って習得した言語、
ビルマ語。
ビルマ語に携わる仕事に就きたいと言う彼女には、
当然ビルマに行く必要があるわけで、
勿論僕にそれを止める理由もない。
OLをしてビルマ行きのお金を貯めていた彼女。
そしていよいよビルマ渡航するのは、
トランペット吹きの休日が鳴り響いた6時間後だった。




セックスなんてしてる場合じゃなかった。
前の晩に正体不明になるまで飲んだおかげで、
ふたりともぐちゃぐちゃの状態で起きたのだ。
シャワー借りていい?
どうぞ。僕は清拭にしとく。
と早口に交わし、
彼女は渡航の準備を、
僕は見送りの準備を猛然とし始めた。


濡れタオルで体を拭きながら実家に父の日おめでとうのFAXを流す。
父親が他界している彼女の目の前では少し気が引けたが、
どうがんばっても彼女の目に触れずこっそりと送るチャンスがなかった。
FAX送信完了。
と同時に電話が鳴る。
実家の母からだ。
また元気にしてるのか、という電話かと思ったので、
兎に角時間がない旨を伝えて受話器を置こうとしたが、
それは僕の見当違いだった。
どうやら僕は原稿を裏表逆に送っていたらしい。
母の朝は相変わらず早いなぁと思いながら、
丁寧に謝ってFAXを再送信した。
今度は裏表をちゃんと確かめて。




その後はもうそれこそ大慌てで、ノンストップで、
用意ができ上がるやいなやうちのインターホンが鳴って、タクシーの運転手さんがお出迎え。
100リットルのスーツケースと手荷物(と呼べるかどうかわからないぐらい巨大なバックパック。詳しくは最後に載せる画像参照)を、
運転手さんと三人でタクシーのトランクに積み込む。
関空行きのシャトルバス乗り場まで早朝の三宮を進む。

余談だけど、
タクシーの車窓から、ものすごい数のパトカーが一台の車を包囲しているのを見かけた。
包囲されている車の運転手は、素っ裸だった。
「シャブでアゲられてるそれもこんな早朝に!」
とタクシーの車内で言ってみるも、タクシーの運転手さんは苦笑い、彼女はすでにセンチメンタルジャーニー。
「出てきたのが味の素だったらいいのにねッ!」という僕の訳の分からないフォローが虚しく車内に響いた。


バス乗り場に着くと、
関空行きバスまもなく発車しまーす」というだるそうな声が聞こえた。
無言でバスに飛び乗る。
満席のバス内では満足に話すことができず、
60分ほどバスに揺られ、関空に着く。




4年ぶりの関空
4年前も同じように、朝、ここを訪れた。
その時は父が一緒だった。
ふたりでここでイミグレーションを受けて、インドネシアに行ったのだ。
20数年生きてきて、あんなに父と一緒にいたのは初めてだった。
あの旅までは、
父親と1分以上話したことは本当に数えるほどしかなく、
あの旅以降1分以上の会話をしたことは、まだない。
特別な旅だった。
今朝、FAX裏表逆の件で母からの電話を受けてる横で、
『夜、実家に帰ってあげれば?』と書いた紙を見せ、気遣う彼女を思い出す。
僕は首を横に振って、別にいいよとジェスチャーした。


関空の4階入り口、高速バス降り場の横の灰皿で、
彼女とふたりでタバコで一服する。
4年前の早朝も、
「空港の中は喫煙コーナーが少ないから外で吸わなあかんで」と
ここで僕は言った。
「喫煙者もいよいよ肩身せまなってきたな」と父は返す。


ビルマに行ったらタバコやめようかな」と彼女がぼんやりと言う。
僕はそれをぼんやりと聞き流した。


一服し終え、空港内へ。
米ドルへの両替とチケットの受け取りを済ませる。
予定より早く着いたので、
空港内のカフェでフライトまでの時間をつぶす。
どんよりと沈む彼女を横目にコーヒーを何杯も飲んだ。
おいおい行く前からセンチメンタルジャーニーでどうするよー、なー。
となんとか奮起させようと策動してみるもどんどん沈んでいく彼女。


ろくな話もできず搭乗開始のアナウンスが流れる。




まだ続きます。いつまで書き続けることやらと。

◆いただきましたトラックバックス其の壱:
id:yasuhitoさんからMusical Batonなるものをいただきました。
こういう類いのものは、
Blogヒエラルキーの最も最下層に位置するここ三日坊主印にとって、
非常に切ないです。
なぜなら、もうバトンを回す相手が見つからないから!ほら!なぁっ!
チラっと知りあいのはてなダイアラーの日記を見てみると、
もうとっくにバトン貰っちゃってて、
しかもさらっとバトン渡しちゃってたりして、
世知辛い!

でもその実かなり喜んでおったりしますゆえ、
ありがたく頂戴しておきます。
書きかけの日記がありますので、ワームホールを突き抜けて18日分に掲載します。

CSSキレイキレイサイト:ALPHABET http://d.hatena.ne.jp/yasuhito/

◆いただきましたトラックバックス其の弐:
id:gin_iroさんからBook Batonなるものをいただきました。
こういう類のものは、
Blogヒエラルキーの最も最下層に位置すr
<中略>
世知辛い!

ちょっと今は本のことを聞かれたくなかった。
なんかこの人、移り気な感じぽい!恐ろしい子
みたいなイメージを抱かれかねないほど読みかけの本が多いんだ。
未だ19日の日記を書き終えてないので、ワームホールを突き抜けて18日分に掲載します。

うちから徒歩10分ご近所物語司法書士と宅建とバイトであばばな人の日記 http://d.hatena.ne.jp/gin_iro/

*1:midiファイルへのリンクなので音が出ます。注意。それにしても、メロディーをカタカナ表記にするのってむずいよね。

*2:こと仕事においては躁のほうが軽快に進めていけるので躁のほうの治療はしていないのだけれど。