体脂肪計と月面ジャンプ。

小学生だったころ、青少年科学館というところに社会見学に行った。
青少年科学館は宇宙とか科学とかいわゆる子供たちが心躍るマシンが大量にあって、
当然僕たち小学生は、月面ジャンプ体験装置やら真っすぐ立ってるのに斜めになってるような不思議部屋に群がったのだけれど、
僕は何故か人知れずひっそりと、でも存在感たっぷりに鎮座する、当時まだ一般家庭に普及していなかった体脂肪計に興味を惹かれた。


NASAの匂いが漂う巨大な体脂肪計に靴のままあがる。
パソコンのモニターのような画面には何故かそれっぽい数字が出てくる。


本当に不思議に思った僕は、
あろうことか遠足リュックを体脂肪計の上に乗せて計測してみようと思った。


計測開始ボタンを押して計測が始まったその刹那、
数字が出てくるモニター画面が暗転。
DOS画面のようになって延々とエラーログを吐き出し始めた。
思いも寄らぬ異常事態にぼう然としていると後ろから僕と体脂肪計を見つめる武田くんの視線に気づいた。
僕はやあやあと笑顔で近づき、




「動くと殺す。声を出しても殺す。今見たことは誰にも言うな。記憶から消せ。
 俺の言ってることが分かったのならお前はバカみてぇにここで息だけしてろ。わかったな?」




といった感じの小学生が思いつくであろう最大限の脅し文句を、ただ見ていただけの武田くんに浴びせ、
彼が頷くことしかできない壊れたロボットに変化する様を見届けた後、
何喰わぬ顔で月面ジャンプ体験装置の列に並んだのでした。


あの時から何年も経って、
今はまったく違う気持ちで、わが家にも当たり前のようにある体脂肪計とにらめっこしている。


そして一向に減らない体脂肪率を眺め、
これは武田くんと体脂肪計の呪いではあるまいかと、
日々思うのです。