粘着紙。


なにをしているのでしょうか。


自炊をしないためうちには生ゴミなんてまるでなくて、
特にここ一週間の生ゴミなんてたまごのからだけで、
病的なまでに几帳面なのでゴミを出し忘れたことは引っ越して一度しかなくて、
日差しが当たるとモニターの色がわからなくなるので昼間でもカーテンひいてて、
もっと言うとエアコン入れっぱなしなので家を出かける時か、
洗濯物を干す瞬間にしかこの部屋は外部とのつながりを持ちません。
シャッタアウト。
完全に外界から独立している部屋。
恐らく衛生面でも問題あるまい。


そこに、
嗚呼、口にするのもはばかられる昆虫がでました。
恥ずかしながら人生初の対峙です。
それもXLサイズ。


先日買ったターンテーブル
東京イズバーニングをヘッドホンでふんふん言いながら聴いてて、
そうだタバコを吸おうとキッチンに立とうとしたら玄関に、いた。
そこはほら、虫嫌い王三階級制覇の僕ですから、当然全身から汗が吹き出るわけですよ。
汗が背中をつたう、今年にはいってはじめてかいた大汗の原因がコレとは。
東京なんかより俺イズバーニング。


状況を把握するのに5秒。
行動に移すまでに5秒。
10秒後には柄の部分が伸縮するダスターにガムテープを巻き付けた、
即席虫取り紙を作っていた。
素早い。
見惚れるほどに俊敏な動き、一分の無駄もない。
両親に見せたいほどだ。
そうだ後で実家に電話しよう。
この後に起こる武勇伝を報告するために。
そんなつまらないことで電話をしたら嫌がられるかな?
気後れすることはないか。盆以来連絡してないことだし、いいきっかけさ。
そのためにはすぐにアレの処理をしないとね。
なあにすぐ片づくさ、見たまえ僕のこの俊敏さ、
アレはあと数秒足らずで入り込む家を間違えたことに気付くだろう。
はははは、ほおら諸君、ごらんあれ!
このとおり、がっちりキャッチさピぃをぺいあおpだふぉぱいふぉあdgじゃどgjかdgじゃおpdgじゃあああああああああ




はやいはやいはやい。はやすぎる。
昆虫に許されたスピードの範疇を超えている。
「自分がノロいって思ってるだろ!?
 安心しな、
 オレがはやいだけだからな!!!!!!!」
などと今起こった出来事に脳内アテレコしているうちに
危険を察知したアレは、あっという間に僕自身も存在を知らなかった下駄箱と壁の隙間に消えた。


恐ろしいほどのスピード。
さらに併せ持つ警戒心。
このコンビネーションは足し算ならぬ、掛け算。
なぜこの昆虫にのみ、このちからを与えることを神は許したのか。
くたばれゼウス。


それから約一時間後。
とうにレコードは演奏を終えている。


静まり返った部屋、
奇妙な棒を持つ男、
張りつめていく意識、
のぞく影、
一瞬にして最高潮に達する緊張、
振り下ろされる棒。


人類の勝利。


◆追記:
ほぼ100%間違いなく、外部から入ってきた昆虫なのだけれど、
こんなにもシャッタアウトされた部屋にどうやって忍び込んだのかと格闘の間ずっと考えていた。
そして勝鬨をあげたあとに、確信した。
息を整えると、やおら、玄関の郵便受けに部屋の中から手をつっこんでみた。
やっぱり。
郵便受けにはポスティングされた地域新聞が中途半端に刺さっていた。
ポスティング業者によるこの半ドアの郵便受けができ上がったせいで、
その隙間から入ってきたのだ。
間違いない。
ちゃんと奥まで突っ込めヴォケ。


半ドア状態で去ろうとするポスティング野郎に反応して、
野郎の指が郵便受けに触れた瞬間、
相手が発狂してエビとバッタ以外のことを考えられなくなる装置を郵便受けに取り付けたい。
誰か作ってください。