放火。

昨夜、というか今朝か。
ゴミの日だったのでゴミステーションまでゴミを捨てに行ったのだけど、
ゴミステーションの裏にある公園のあちこちが燃えていた。


火の手はもうおさまりかけていたものの、
公園の隅には、たき火の跡のように大きく燃えた跡が残っていた。


誰かが火遊びでのしたのかなと思ったが、
その時時刻は朝の4時。
お子たちがいけない遊びをする時間にしては少々遅い。


何が燃えているんだろうと、
隅の大きな燃え跡を覗き込んでみると、
猫が焼け死んでいた。
いや、猫かどうかわからないけど、
猫ぐらいの大きさの小動物の死骸があった。
瞬時に『猫だ』と思ったのでたぶん猫だろう。


思ってもいないものをゼロ距離で見てしまったので、
おもわず「をぅあ」みたいな訳の分からない言葉が出た。


誰が、とか、何故、とか考える暇もなく、
弾かれたように立ち上がった僕の視界に入ったのは、
倒れた人、もとい今から考えるとあれは隠れてたんだな、
隠れた人だった。


あたまの中がとっ散らかった状態だった僕は、
誰かが倒れてると思い込み、無意識にそっちの方向に歩きだした。


人影に一歩踏み出した瞬間、
今度は人影が、暗がりの中から弾かれたように飛び出してきた。
それも二人。


反射的に追いかける。
後ろ姿を見ると、明らかに子供だ。
背格好からすると中学生くらいだろうか。


散り散りに逃げられたので一人を追う。


が、ビーサンで追いかけるのはあまりにも不利で、
あっという間に見失ってしまった。


引っ越して半年になるが、
うちの周りは細い道が多く、
地元で生まれ育たないと地理がつかみにくい。
行き止まりや分かれ道が非常に多い。
走り慣れてない道では息もあっという間にあがってしまった。


犯人とおぼしき人物をずいぶんと探し回ったのだけれど、
一向に見つからない。
警察に連絡しようと思ってパンツのポケットを探るが、
携帯がない。


当たり前だ。
ゴミを捨てに出てきたのだ。
よもや燃えるゴミを捨てにいく帰りに、
燃えた猫を見るなんて誰が想像できる。
笑い事ではない。


ここからだと自宅に戻るより、友人の家が近いなと判断したので、
アポ無しで少年の家に行くことにした。
加勢及び通報のお願いをしにだ。


この頃4時半。


少年の家のチャイムを押すが不在か熟睡中のようだった。
仕方なく警察に連絡するために家にとって帰す。


携帯を持って猫の焼死体があった公園を再び訪れる。
だが、どこを探しても焼けた猫がいない。


もうパニック。
さっき見たのはリアルな幻覚か?
パニクった人間の思考回路では、ちょっとした火遊びの跡すらも、
放火犯が猫を焼いて楽しんでいるように曲解するようになるのだろうか。
でもあのニオイ、音、どう考えてもリアルだ。
想像力はそれすらも凌駕するものだ、と言われれば何も言えないんだけど。


悪夢は夜ごとに形を変えやってくるのに、
なぜ日常生活でもこんなに嫌なものを見せるんだろう。


秋は嫌だね。