墨の話。





外国を長期旅行してるときに、せっかくだからタトゥーでもいれたいなぁなんて思ってたんですが、
ちょうど飲みにいった酒場でなんとあのボブサップ(当時はまだほぼ無名)がいまして、
どうにかこうにか片言の英語で打ち解けて飲みながらだらだら話してたら、

僕「タトゥー入れたいんだよね」
ボブ「オー、ソウナンダ。オレ、タトゥーマシンモッテルヨ。ナンダッタライレテヤロウカ、メーン?」
僕「へぇ他人の肌に彫ったことあるの?」
ボブ「アルヨアルヨ。ミテクレヨブラザー」

とか言いながら、ボブは意外にも無印に売ってるようなクリアーファイルを取り出して
タトゥー作品集を見せてくれたんだけど、これがなかなかどうしてあの筋骨隆々の体からは想像できないくらい繊細な絵で、
すぐに気に入った僕はやれ彫ろう今彫ろうなんて酔いも手伝ってかすぐに彫ることになったんです。
一瞬、あぁずいぶん酒飲んでるけど化膿したりしないかなとかその程度の不安はあったけど、
なんしかほら、酔ってたからね。
ノリもいいわけです。


ボブの住むアパート(ちゃんとあの飼い猫もいた!)にはタトゥー施術用のベッドが置かれてて、
コーヒー飲んで一服したらすぐに彫り始めることになったんだけど、
僕の背中と両肩にはもう既におっきいタトゥーが入ってるんで、
「どうせなら胸側におっきいの彫ってくれよデザインはお任せでいいからさ」
てな注文だけつけてボブに彫ってもらったんです。


僕は毎回タトゥーを彫ってもらってるときは眠ってしまうクチなので、
この時もアルコールも手伝ってか、ぐっすりだったわけです。


ボブ「ヘイメーン、モーニング」
僕「オーバー?」
ボブ「イェア」
大男のモーニングコールで目覚めて、
すぐに具合を確認したかったんだけど、
ボブが、「モウジキカアチャンガクル。オマエココニイタラ、オコラレル。アブナイ」
みたいなことを言って急かすので、しぶしぶシャツを来て僕は宿泊してる安宿に戻ったんです。


寝起きのぼんやりした頭で、シャツを脱ぎ、鏡の前に立つと、めまいを覚えた。


僕の胸には、
幼稚園児の落書きみたいな、野球のユニフォームを来た男性のイラストがでかでかと書かれておりました。
ぼうぜんとした頭で胸のタトゥーを眺めていると、鏡越しなので左右逆転した英文が目に付いた。
なんて書いてあるんだろうと手鏡を使って合わせ鏡で見てみたら、




『NewYork Yankees "Hideki Machui"』




冷や汗の中押し寄せてくる、
絶望と”マチュイ ヒデキ”。
今まで生きてきた中で一番の絶望。
胸側の上半身一面に広がったこの激烈に悪趣味なタトゥーをいますぐ消し去りたい。






という夢を、体にフィットするソファにまどろんだ2時間の間に見た。
起きたらすごい頭痛。
点けっぱなしのテレビではおりしもミルコがKOされたとこだった。
これは呪いのソファではなかろうか。